孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「前回、花嫁は来なかった。花嫁行列を迎えに魔の森に魔人一同向かったが、そこには花嫁と王国軍がいた」
「そんな――」
「暗黒期は訪れた。しかし暗黒期を引き起こす原因の魔人が殺され、強制的に暗黒期は終わった。だから花嫁が来た場合を知らない」
「まさかアルト様のご家族は」
「そうだ。その時に皆死んだ」
この話題はこれ以上踏み込んでいいのかわからない。彼の心を巣食う闇はきっとここから来ているからだ。なんと声を掛けていいのか。どんな言葉が陳腐になりそうで言葉を発することが出来ない。
「お前が気にしなくていい」
アルト様はそう言うと食べ終えた食器に指を向けた。ふわりと食器がキッチンに移動していく。
「夜に力を借りることになる。日中は休んでおくといい」
いつもより優しい口調でそう言うと、彼はダイニングから出て行った。一人にしてほしい、そんな背中だった。
しかし。休んでおけと言われても。
ぐっすり快眠してしまったし、夜が気になって落ち着かない!
「こういう時は小麦をこねるしかないな」
夜が長くなるのであれば、お茶菓子が必要がいるんじゃない!? モヤモヤした感情があるときは小麦にぶつけるしかない。どうせ何かしていないと気が落ち着かないんだから、クッキーでも作ろう!