孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
暗黒期の陽は沈まない。ずっと暗いままだからだ。
だけど、時刻は十八時半。そろそろ定義としての夜になってもおかしくない。私たちは早めの夕食をとっていた。
「ショコラがいないとなんだか寂しいですね」
「そうだな」
「今日はクッキーをたくさん焼いたんですよ」
「そうか」
私はどうでもいい話題を振り、アルト様は生返事を繰り返した。
二人ともいつ訪れるかわからない変化にそわそわして、会話など意味を成していない。
そして、唐突にその時は来た。
食後の紅茶を飲んでいたアルト様の手からカップが滑り落ちて割れた。カップが割れた音に気づき、アルト様を見ると姿が変化していく。
いつも装着している黒の手袋が弾け飛んだ――ように見えた。人より少しだけ鋭いだけだったはずの爪が、鳥類のような鋭いかぎづめに変化したことで手袋が裂けたのだろう。
同じことはシャツにも起こった。バギバギ……と骨が折れるような音がして白いシャツが弾け飛び、アルト様の背中からは大きな黒い羽が生えていた。頭には鋭い角が生え、唇に納まりきらなかった牙も見える。
ちょっと耳がとんがっているだけで、あとはただの人間にしか見えなかったアルト様が――
「なんというか、オーソドックスな魔人ですね」
「……お前は本当に緊張感がないな」
アルト様は気が抜けたように小さく笑う。いつもと違うのは犬歯が鋭い牙になっていること。