孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
19 もう一度呼んでください
「え?」
唇が一瞬重なったかと思うとすぐに離れた。
知らない鈍い金色の瞳が私を捕らえると「アイノ」ともう一度名前を呼ぶ。いつもは温度のない声が、熱い。
アルト様の熱が伝染したかのように私の頬も熱くなる。動けないままでいると、顔が近づいてきて……私の首元に顔をうずめた。首にかかる息は熱い。
え? やっぱり暗黒期ってそういうこと!?
頭が真っ白になって何も思い浮かばないけど、とにかく受け入れるしかない! 私は花嫁なんだから!
次の展開に備えて私は目をぎゅっと瞑った。
「……ん?」
だけど、いくら待っていても何も動きがない。目を開けると、私の顔のすぐそばにアルト様の柔らかい髪の毛があって、彼は動かないまま私に体重を預けてもたれかかっている。
「アルト様? 大丈夫ですか?」
身をよじり彼の身体を少し起こして顔を確認してみる。
息は熱いまま、目を瞑っているアルト様に意識はない。でも先程のような苦悶の表情は薄まりただ眠っているだけのように見える。
「キスしたから魔力を分け与えられたのかな……?落ち着いたのかな?」
規則正しい寝息のようなものが聞こえてくる。
角も牙も羽も魔物の状態のままだけど、ひとまずは様子を見るしかなさそうだ。
「フロータ・ルイロー」
呪文を唱えて手を伸ばすと、私の部屋からゆらゆらとクッションとブランケットが飛んでくる。本当はアルト様を自室に運んであげられたらいいけど、私の魔力では軽いものしか運べない。
クッションの上にそっとアルト様の頭を乗せてブランケットをかける。……うん、やっぱりただ眠っているだけみたいだ。
いつかお昼寝の時に見たあどけない表情で眠っている。
……なんだか身体が重くてだるい。
アルト様に魔力を分け与えたからかな。明日からも暗黒期は続くのだし、私もさっさと寝よう。
そう思って立ち上がろうとしたのだけど、うまく足に力が入らず立ち上がれない。
それにすごく眠い。瞼が強制的に閉まっていく……。