孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「わっ」
「掴まっていろ。多分熱がある」
「熱が?」
目覚めて間近にアルト様がいたから体温が上がったのかと思っていたけど、本当に体調が悪かったみたいだ。
アルト様の言葉に甘えて、服に掴まろうと思ったけれど……そうだ、アルト様の服は昨日弾け飛んだから上半身裸だった。手の行く先に悩んで、結局首に手を回した。想定していたより密着してしまうし直に体温を感じてどぎまぎする。
「すみません」
「お前は悪くない。多分俺が魔力をもらっ――」
階段をのぼる足が突然止まった。
「どうかしましたか?」
すぐ近くにあるアルト様の顔を見ると、彼こそ熱があるんじゃないかというくらい赤い顔になっている。
「俺は、お前から魔力をもらったか?」
「多分。白の花嫁からの魔力の受け渡しの方法ってキスで合ってますか? それなら分けられたと思いますけど」
「あれは現実だったか」
「はい」
「……」
私から顔をそむけているアルト様の顔はやっぱり真っ赤で、それを見ている私の体温はさらに上がってしまったんじゃないだろうか。
「……すまなかった」
「でもキスしないといけないんですよね?」
「そんなことはない。触れるだけで人間の魔力を受け取れる」
「じゃああれはアルト様の意思ですか?」
「違う……いやわからない……すまなかった」
アルト様がこんなに狼狽えている姿は初めて見た。
階段の真ん中で、私を抱き上げて、冷や汗を浮かべながら思案しているアルト様は少しシュールで、可愛くて愛しい。
「嫌じゃなかったですよ。だから大丈夫です」
「そ、そうか……」
そう言うと赤い顔のまま階段をのぼるのを再開し、私の部屋まで到着した。
優しくベッドにおろし、布団をそっとかけてくれる。
「一気に魔力をもらってしまったみたいだ。……すまなかった」
ベッドの横にしゃがみ、私の顔を覗き込むアルト様の瞳からはまだ動揺が消えていない。