孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜


 サイコロりんごを食べて気合いを入れ直してからは普段通り過ごした。アルト様は部屋にこもっていたから、今日は少し気まずい食事を共に過ごしただけだ。

 そしてまた今日も『夜』が来た。

 昨日と同様にアルト様の部屋で。私たちはベッドに腰掛けてその時を静かに待ち、姿が変わってすぐに両手を繋いだけれど

「アイノ、足りない。もっとお前を感じさせてくれ」と懇願するように抱きしめられた。

 長い爪が私の頬に触れて、顔の向きを変えさせられる。
 目と目が合うと微笑みかけてくれる。その微笑みは、私のことが可愛くて仕方ないと言っているように見えて胸が甘く疼くけど、その心がホンモノなのかまでは推し量れない。

「アイノ……可愛いアイノ」

 今夜も何度も名前を呼んでくれるけど、アルト様は『アイノ・プリンシラ』が見えているのかな? 可愛いと思うのは『白の花嫁』だから?

「アイノがもっと欲しい」

 私から目をそらすことなく何度も髪にキスをするのに、髪以外には触れようとしない。求めてもおかしくないような、熱い瞳をしているのに。

「アイノ、愛している」

 そう言われると嬉しい。だって私はアルト様が好きなんだから。

 ……どれくらい時間がたったんだろう。部屋に置いてある時計を見ると三十分経過していた。どうやら私の身体は魔力の受け渡しに慣れてきたみたいで、簡単には気を失えなくなったらしい。
< 125 / 231 >

この作品をシェア

pagetop