孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
23 制御できない感情 ◆アルト視点
「僕もいきたいよ、かあさま」
「だけどアルトは熱があるのよ」
「魔人なのにお前は身体弱いんだよなあ」兄が呆れたように言った。
「まあただの儀式だから。花嫁はこれからいくらでも会えるさ」父は穏やかなまなざしを向けてくれる。
「この屋敷でも花嫁さんを迎えるパーティーをしましょう。そうだ、もし体調がよくなったら庭の花を摘んで花束を作っておいてくれる? きっと喜んでもらえるわ」
「うん、わかった!」
「じゃあゆっくり眠って。いいこにしているのよ」
母は毛布を僕の身体にしっかりとかけ直してくれる。優しくて冷たい手が頬に触れて、母の優しい視線を感じながら僕は目を瞑った。
――だけど、誰も帰ってこなかった。花束は出来上がっているのに。
「置いていかないで……っ!」
夢の中の自分の叫び声に驚いて目覚めた。また昔の夢を見てしまった。
どうやら昨日も気を失ってしまったみたいだ。眠りたくないのに、強制的に眠ってしまう。
最悪な朝を迎える。夜みたいに暗い朝は彼女が来る前に戻ったみたいだ。
あの日、目覚めたときには既に何もかも無くしてしまっていて、二度と朝を迎えたくなかった。
喪に服して暗くした世界は、朝が来ることがなくて安心する。
この二十年間ずっと暗闇の中で、季節もなく、一日もなく、ただ生き延びた。