孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
24 私はヒロインじゃないから
「はあ」
何度目かわからないため息が漏れる。編み物もまったく進まずに眠くもないのにベッドに入って横になっている。
……リビングルームに戻ろうか。でもアルト様と顔を合わせるのが怖くて、部屋から出る気がしない。昨日アルト様は私の体調を気遣ってずっと編み物の様子を見守ってくれていた。
いつもならその心配がありがたくて嬉しいのだけど。
昨日のキスの後の、アルト様の表情が忘れられない。
キスされることは嫌ではない、アルト様だから。
身体だってもう全然大丈夫だから、気にせずに魔力を受け取ってくれたらいい。
でも、キスした後のアルト様の「しまった」という顔にはどうしようもなく傷つく。
魔力を渡すと『いつもの』アルト様に戻ることには気付いた。
『夜』のアルト様が『白の花嫁』を求めて、蕩けて溺れた瞳を向けてくるのに魔力を渡した瞬間に、瞳が凪ぐことがたまらなく悲しかった。
それを求めてここに来たのに、傷つくなんてバカらしい。
「アイノ、入っていいかしら」
「ショコラ!? もちろんよ! 入って!」
数日ぶりに聞く優しい声と可愛いあんよでよちよち歩く姿に涙が滲む。
「元気にしてい――ないようね」
ショコラは私の顔を見て苦笑するとに飛び乗った。
「ショコラは元気にしていた?」
「私は問題ないわ。今日は魔物も落ち着いてるし、頼まれていた買い出しに行こうと思って」
「ありがとう、メモは用意していたのよ」
立ち上がろうとすると肩にぽんと前足を置かれる。
「アイノ、ひどい顔だわ。体調というより気持ちの問題かしら?」
「……覚悟が足りなかったのかも」