孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 ……昨夜まではこの反応にショックを受けていた。煽情に支配されてキスをした直後に戸惑って目をそらすアルト様に。でも不思議と今はこの不器用な反応のほうが嬉しい。

「ダメですか?」
「……ダメではないが……なんのために、なぜ……」

 なんのために。本当にそうだ。なんでこんなお願いをしてしまったんだろう。
 でも知りたかった。まやかしのキスじゃなくて、アルト様が私のことをどう思っているかを。

 使用人として、そばにいることは認めてもらえているはずだ。
 白の花嫁として、魔物化したアルト様に必要としてはもらえているはずだ。

 ――ではアイノのことは?
 それを知りたくて突拍子もないお願いが口から飛び出た。

「ええと……その……」

 私のことを恋人として、好きになってくれませんか?

 そんなワガママを言ってしまっていいのだろうか。キスをしてほしいなんてワガママは言えるくせに。本心をさらけ出すのが怖い。
 思わずうつむいて「ええと、その」と単語にならない言葉を並べたままでいる私の隣に、アルト様が移動してきたことが気配でわかった。

「体調が悪いわけではないんだな?」
「はい」
「魔力が苦しいとかもないか?」
「はい」
「お前は、その……嫌ではないのか、キスが」
「はい」

 アルト様を見上げると、青い瞳と目が合った。穏やかな海のような青にゆらりと熱を感じる。

 瞳は雄弁で、私はこの瞳で見つめられたかったのだと知る。
 青を目に焼き付けてから目を閉じてみる。

 鉤爪のない指が私の顎を掬い、そっと向きを変えられる。
 落ちてきたのは、本当に触れているか疑うほどのキスだった。
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