孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「俺は『魔物化』したから、花嫁だと思ったわけじゃない。『白の花嫁』ではなく、お前……アイノだからそばにいて欲しい」

「……」

 言葉が紡げなかった。言葉だけじゃない、頭が真っ白になるとはこのことだ。こんなふうにきちんと言葉に出してくれるとは思わなかった。アルト様が以前から私を…………?

「俺はあまり女の気持ちはわからない。アイノの悩みは、この答えで解決できただろうか」

「あの、私もあんまり勘は良くなくて。これは私のことを好き――恋愛として好きだと、自惚れてもいいのでしょうか」

「そうだ」ぶっきらぼうに聞こえる声が、優しい。

「嬉しいです。念の為に言いますけど、私もアルト様のことが恋愛として好きです!」

「……念の為って」

 アルト様の口角が上がりわずかに目尻がさがる。その表情を見ると、本当なのだと胸の奥から喜びが溢れてくる。

「なんでクリスマスに指輪くれなかったんですか?」
「魔物化した姿を恐れるかもしれない」
「そんなことを気にしていたんですか!? アルト様のこと怖いだなんて思いませんよ!」
「魔人の愛が重いことはわかるだろう」
「愛なら大歓迎ですよ!」
「しかし……昨日は怖がっていた」

 思い出すように呟いた声は自信なさげに小さい。

「昨日ですか?」
「俺が、キ、キスをしたときだ」
「あれは……魔物化している時しか求められないんだなって悲しくなっちゃっただけですよ」
「そ、そうか……」

 なんとなく気恥ずかしく黙ってしまうとアルト様も黙る。でもそんな沈黙さえ胸をくすぐる。

「お昼のアルト様でも私にキスしたいって思ってくれますか?」
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