孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 尋ねるとわずかに目を見開きしばらく意味を考えたあとに困った顔をするのが愛しい。

「……まあそうだな」
「もう一回しますか?」
「今日はいい。……色々と追いついていない」

 アルト様は口元を抑えて顔をそむけた。
 それは、キャパオーバーって解釈してもいいのかしら。
 感情を制御せずにぶつけてくれる『夜』のアルト様にはドキドキさせられっぱなしだけど、感情を溜め込んで捌け口なく赤くなっているアルト様はもっと愛しかった。

「ふふ」
「笑うな」
「だって、夜と全然違うから」
「そっちの俺の方がいいのだろうか」
「アルト様は全部好きですよ。でも気になることはあります。『魔物化』してるとき、瞳が金色になっていると時に記憶はなくなっていたりしますか? 誰かに乗っ取られているような感覚だったりは?」
「それはない」

 アルト様は強く断言して、もう一度私を見つめた。

「暗黒期前に指輪を渡せなかった理由の一つでもある。自分が自分ではなくなって、アイノをアイノとして見れなくなったらと。――夜はたしかに気持ちが抑えきれないし増幅する感覚がある。でも、根にある気持ち自体は変わらない」

「すみません。今の言葉、とんでもなく愛の告白じゃないですか?」

「……ああそうだ、自分でも驚いている」

 あれは全部本心で、私に対する純粋な気持ちだったの?
 今私を見つめる瞳は穏やかで、夜のような激しさはまったくない。それがどうしようもなく嬉しくて涙が滲む。

「嬉しいです。私もアルト様のことが大好きです」
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