孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
『夜』の訪れはいつだって緊張するけれど、今日の緊張はその二倍にも三倍にもなる。

「……私今夜を耐えられるかな」
 出来上がったばかりのサマーニットを握りしめて呟く。

「今夜、何かあるのか?」
 アルト様が私の隣に腰掛けた。

「だってアルト様の気持ちを知ってしまったんですよ! 今までは魔人はそういうものだからって思ってましたけど……それが全部アルト様の本心なんて聞いたら……」

「そう言われるとこの後やりづらいんだが」

「何をしてもらっても! 大丈夫ですので!」

「胸を張るな」

 アルト様はそっぽを向くけどやっぱり耳は赤くて愛しい。

 ――そんなやり取りをしているうちにアルト様の姿が変化したから、私はすぐに胸に飛び込んでみた。両手を繋ぐより抱きしめたほうが魔力は伝わるはずだ。アルト様の気持ちがわかった今、遠慮をする必要もない。

「アイノ」
 金色の瞳のアルト様は、私の言動に動揺したりしない。余裕の表情で微笑む姿は、ドキドキするような物足りないような不思議な気持ちだ。
 アルト様は私の身体をひょいと抱き上げて、膝の上に向かい合わせに座らせる。身体が密着して顔を見られるのが恥ずかしい。

「アイノ」
 名前を呼ばれる。これは私のことが愛しくて仕方ないって顔だ。多少感情が高ぶっているとはいえ、元となる気持ちを確かめたから純粋に嬉しい。

 アルト様の頬に両手を当てる。やっぱり手を添えるのは気持ちいいみたいでアルト様は目を細めた。
 両手首を掴まれてその腕を下げられると、おでこにキスが落とされる。まぶたと、頬にも落ちてきて最後は唇に軽く触れた。

「くすぐったいです」
「可愛い」
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