孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
ボウルの中の生地はある程度まとまってきたところだった。
台に打ち粉を振って、生地を取り出し粉に擦り付けながらこねていく。
「この生地を伸ばしたり、叩いたり。とにかくこねることを繰り返します」
「わかった」
アルト様は言われるがまま、生地を台に打ち付けて、伸ばして、こねる。ぎこちない手つきだけど、私よりも力は強くて作業も丁寧だ。
「こうか?」
「すごくいい感じですよ」
「これで終わりか?」
「まだまだですよ! このベタベタしている生地が滑らかになるまでひたすらこねるんです。ボコボコの表面がつるつるになっていくんですよ」
「……結構時間がかかりそうだな」
「十分くらいかかるかもしれません。力仕事でしょう?」
「確かに」
一人でやると結構手も腰も痛くなるから手伝ってもらえるのは大変助かる。それに二人並んでキッチンに立っているだけでなんとなく嬉しい。
「これは何を作っている?」
「普通の丸パンの予定です。今日の夜はシチューのつもりなので」
「ふむ」
話しながらもアルト様の手はリズミカルに動いて、生地はどんどん滑らかになっていく。
「パン作り特技に出来ますよ。アルト様はどんなパンが好きですか?」
「先日アイノが作った木の実のパンはうまかった」
「あれおいしかったですよね。また作りましょう! ブルーベリーを収穫したからそれも入れて」
「うん」
「ショコラが買ってきてくれたオリーブの瓶詰も使い切ってないから、オリーブをたくさんいれたパンもいいなあ。チーズやベーコンもいれて」
「うまそうだな」
「今度一日かけていろんなパンをつくりましょうか」
ささやかな約束がくすぐったかった。
丸パンはもちろん成功して、焼き立てのパンを二人でつまみぐいしたらあまりのおいしさに夕食の分がほとんどなくなってしまったけれど。