孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
気づけばアルト様がそばにいる。そんなことが毎日のようにある。
あるときはダイニングの窓を拭き上げようとぞうきんを絞っていたらアルト様が後ろに立っていた。
「魔法を使わないのはわざとか?」
「無心で拭くの結構好きなんですよ。まあこれは半分本音で、魔法だと加減が難しいんです」
窓掃除を魔法でやるのは案外難しい。水でびちょびちょになりすぎてしまったり、結局あまりきれいにならなかったり。ごしごしと拭き上げてピカピカになるのを見るのも好きだから、手作業でいいかと思っていた。
「では魔法の練習をするか」
「いいんですか! 水の加減が難しいんですよね」
「イメージが悪いんじゃないか?」
……こんな風に気づいたらアルト様が隣にやってきて、一緒に作業をすることが増えていた。
今はリビングルームで編み物をしているのだけど。向かいあったソファにアルト様は座って私の手元を凝視している。膝の上には魔法書も置いてあるが、明らかに読んでいない。
「アルト様もやりたいですか?」
「いや……器用に編むなと思って見ていた」
「あんまり見られるとやりにくいのですが」
「……すまない」
私は手を止めてアルト様の隣に移動してみた。
「アルト様ってもしかしてものすごく寂しがり屋ですか?」
「どこかだ」
「最近私たちほぼ二十四時間一緒にいませんか?」
日中自分の部屋に引きこもることが多かったアルト様だけど、ここ最近はずっと私と同じ空間にいる。