孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 アルト様の声は硬く鋭い。それを受けたショコラも「ありうるわね」と強張らせた声で答えた。

「今朝起きたことだけど、昼には話が王都中に広がっているみたいだったわ」
「まずいな」

 こうなることをアルト様は恐れていたはずだ。人間と魔物の軋轢の火種となるものを。
 しかし子供は魔物に襲われた。これが国が仕向けたことならば――。魔人や魔物は、人間にとって悪役になってしまう。

「それからもう一つ嫌なニュースがあるわ。変な手紙が来ていたの、国からみたい」

 ショコラは手紙を取り出して、私たちに渡した。アルト様が開いた手紙を私も覗き込む。

「アイノ・プリンシラは白の花嫁ではない。本当の白の花嫁はリイラ・カタイストである。早急にアイノ・プリンシラは王都に戻るように」

 目に入る言葉に身体が凍りつく。アルト様の花嫁に立候補した時から何よりも恐れていたが起きてしまった……! リイラが本当の花嫁……!

「アイノ、大丈夫? 顔が真っ青よ」
「え、ええ」

 意思と関係なく手が震えてしまう。――そんな私の身体をアルト様が抱き寄せた。

「花嫁はアイノしかいない」
「そうよ、アイノ。国の戯言は気にしてはダメ。そもそも暗黒期に入ってからもうひと月はたつのに今更なにを言っているのかしら」
「王都に戻る必要はない。……抗議文でも出すか」
「そうね。どうせ生き残りがいることは掴んでいるでしょうし」

 アルト様とショコラは『本物の白の花嫁』が現れたことはさほど気にしていない。私を花嫁だと認めてくれている二人にとっては「何をおかしなことを言っているんだ」と思うくらいだわ。

 でも。本来ならば『白の花嫁』はリイラなのだから。
 何らかの強制力が働くことだってあるのだ。それがこの手紙に繋がってると思えてならない。
 背中にまわされたアルト様の手はあたたかくて、身体の震えは止まったけれど。底冷えするような恐怖が足元からせり上がってきていた。
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