孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
29 人間と魔人の深い溝
数日ぶりに太陽が顔を出した。
最近は太陽が出る日も多い。暗黒期は予定よりも早く穏やかに収束に向かっていき、何事もなくこれまで通り二人と一匹の生活が続くと思っていた。
「アイノ・プリンシラは白の花嫁ではない。本当の白の花嫁はリイラ・カタイスト」
国から届いた書簡の内容が忘れらない。アルト様とショコラは抗議文も出してくれたし、国が何と言おうともう私が花嫁だ。アルト様の心変わりを心配しているわけでもない。だけど喉に小骨が突っかかったような不安がある。何か大変なことが起きてしまうような予感が。
「何をしている」
「わっ、アルト様いつの間に!」
せっかくの晴れ間なのでと花壇の雑草抜きをしていた私の背後からアルト様が現れた。
「雑草を抜いてるんです」
「魔法で一瞬で終わるだろう」
「はい。アルト様が教えてくださったからすごく楽になりました。でもこうして無心に抜きたいときもあるんですよ」
無数に生えた雑草を一本ずつ引き抜いていく。根がしっかり張っているものがスポッと抜けた時の感触は手で抜かないと味わえない。
「昨日の雨でかなり抜きやすいんですよ」
「本当だ」
アルト様は私の隣に屈んで、手近な雑草を抜いた。
「先日の国からの手紙が不安か?」
「そうですね。……私、暗い顔してました?」
「お前は何か考えている時に手を動かす」
「あはは、バレてましたか。何か恐れていることがあるわけじゃないんですよ。アルト様に愛されている自信もありますからね!」
「そうか」
アルト様も雑草抜きの楽しさに気づいたのか、連続で抜き始めた。雑草抜きはやり始めると案外止まらないものである。
「私気になったことがあるんですけど、聞いてもいいですか」