孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 焦る私に小さく笑ってからアルト様は続けた。

「人間側がお情けで恵んだ花嫁は必要ないし、人間に溺れる自分などおぞましいと思っていた。国に森に突入されることがあればそのまま死んだっていいと思っていた。――でもお前が、アイノが来てくれた」

 アルト様は私の方をむいて、その瞳に私をうつしてくれる。

「アイノが俺を必要としてるなら、死なないと約束する」
「すごく必要です。私の命よりも大切です! だから絶対約束ですよ」

 私はアルト様に小指をさしだした。遠慮がちに指を絡められる。

「アルト様、私のために生きてください」
「……わかった」
「私ももちろん生きますよ。アルト様の生きる希望ですからね!」
「自分で言うな」

 隣に座るアルト様の腕に寄りかかって自分の体重を預けてみる

「アルト様、今も家族はいらないって思ってますか?」
「どうだろうな。今の俺はアイノとショコラがいればいい。……でもそうだな、アイノとなら」
「私は家族にいい思い出がないから家族というものに憧れがあります。今も充分家族ですけど 」
「暗黒期が終われば――」

 そう言うとアルト様の顔が赤く染まる。彼が言ってくれた意味を感じて嬉しさと照れくささで恥ずかしくなってきたから「ちょっと死亡フラグみたいで嫌だわ」とふざけた。

「死亡フラグとは」と不思議そうな顔をしたアルト様もかわいい。

 いつものように眠気が襲ってきてウトウト始めた私をアルト様は横たわらせてくれて毛布をかけられる。
 トントンと子供をあやすような手のリズムは心地よくて眠りに誘った。今夜、怖い夢は見ない気がする。
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