孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「やっぱりなんだか不思議な光景だわ」
城の食堂には二十名程集まっていて、キッチンでリイラの母とリイラから食事を受け取っている。
「殿下と同席するなんて恐れ多いです」と臨時魔法士が恐縮しきっているが、王子や他の面々は気にすることなく同じ席についている。長机は二つあるが同じテーブルを勧めたようだ。
「二人ともおはよう!」
マティアス様は私たちに気づくと爽やかな笑みを向けた。アルト様は小さな声でおはようと言っているが、マティアス様には届かないだろう。
「おはよう! 食事出来てるから取りに来てー!」
リイラは明るい声で叫んでいる。さすが人たらしのリイラだ、アルト様にも物怖じせずに話しかける。
「アルト様いきましょ」
朝食をリイラの母が作ってくれると聞いて楽しみにしていたのだ。昨日持参してくれた軽食も美味しかった。私の料理は前世の記憶のレシピだから現地料理はぜひ教えてもらいたい。
王子、貴族の息子たち、平民、魔人、生贄の私。本当に不思議なメンバーだ。
「アルト、お願いがあるんだ」
いつのまにか砕けた口調になっているマティアス様はにこやかに話を切り出した。
「彼らは訓練の途中に離脱したから、まだ魔法の練習が不十分なんだ。よければ魔法を教えてもらえないか」
「俺に? 俺は教え方はうまくないぞ」
「アイノが言っていたわ、アルト様はとっても上手だって」
リイラがにこにこと食事を運びながら席についた。そういえば昨日片付けをしながらそんな話をリイラにしたっけ。
「彼らは軍に所属していないぶん自由に動いてくれる。国に選出されただけあって適正はあるはずなんだ、頼む」
「……わかった」
「アルトも柔らかくなったわねえ」
ショコラが私の膝に飛び乗って小さく笑った。