孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
34 おわりとはじまり
穏やかで未来を夢見る楽しい三日は一瞬で過ぎた。この三日は一番幸せな時期だったのかもしれない。
明るくて、広がる未来を夢見ることができるのはこの期間だけだから。
貴族も平民も魔人もみんな一緒に暮らせる世界は、理想では美しく思える。だけど実際にクーデターを起こした後、直面するのは混乱で、これからは現実ばかり立ち向かってくるのだから。
きれいな未来だけを夢見られる最後の時だということを心の中ではわかっていたから。この三日は誰もがいつもよりはしゃいで楽しく過ごしていた。
明日は国王の演説が開かれる日だからとダイニングルームにご馳走を並べて昼から酒を振る舞い、軽い立食パーティーを開催中だ。決起集会というか英気を養うというか、とにかく美味しいものを食べて明日は頑張ろう! というわけだ。
やっぱり今日もみんなどこか無理に明るい表情を作っていて、それが胸をざわつかせた。
パーティーだからといつのまにかダンスが始まっていたりして。私はそれをなんだか落ち着かない気持ちでぼんやり見つめていた。
「これ初めて食べました、美味しいですね」
隅でドリンクを飲んでいた私の隣に臨時魔法士の青年が現れた。根菜を煮込んだ煮物風を皿に乗せている。今日は私も料理をたくさん作ったのだ。なんちゃって煮物、受け入れられてよかった。
「ありがとうございます」
「貴女は元々貴族のご令嬢だと聞きました。料理が得意なんて驚きました、なんだか母の料理を思い出します」
「素朴な味でしょ?」
「すみません! 褒めているつもりでしたが」
「ふふ、伝わってます。ありがとうございます」