孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「あれ。まだ五時でしたね」
アルト様の部屋に入った私は部屋の時計を見て現時刻を知る。暗黒期は空の変化はないから時計を見なくては全くわからない。
「少し疲れた。賑やかすぎる」
「まだ五時ですし、お茶でも淹れてきましょうか」
「いやいい」
そう言ってアルト様はベッドに座ったので私も隣に腰かける。
「暗黒期があけたら……アイノはこの森を出たいか?」
「アルト様がここに住んだままなら私もそうしたいです」
「そうか」
「もしかして私の幸せは森を出た場所にあると思ってます?」
「……他の人間と喋っているのを見たらそう思っただけだ」
アルト様は私を見ずに小さく答えるから、腕を引っ張ってこっちを向かせる。
「まだ私の愛を信じてませんね」
「そういうわけではないが……俺は魔人だ。理想論では平等だと言ってもまた迫害される可能性だってある」
「それなら迫害上等ですよ。また森でのんびり暮らしましょう。私の幸せはここにしかないですよ」
「わかった」
「あ、でもアルト様も。言ってましたよね。白の花嫁は国から与えられるものだって。選択肢が私しかなかったから……イルマル王国に行ってみたら、他の女の子に目移りしませんか?」
ふざけて言ってみると、アルト様はわかりやすく不機嫌な顔をしたから小さく笑ってしまう。
「言っただろう、魔人の愛は重いんだ」
「そうでした」
まだ『夜』ではないけれど、もう夜を始めてしまおう。明日への不安をかき消すためにも。