孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
空は暗闇に包まれたままの午前。正午から始まる国王の演説目当てに人並みは城前に流れていった。
その流れの中にショコラを抱いて私がいた。近くには同じように民衆に紛れ込んだ臨時魔法士の六名もいる。
どのように広場へ移動するか考えて、私は人混みに紛れる事にしたのだ。私自身は餌なのだから、アルト様が現れるまでは簡単には処刑されないはずだし、大々的な花嫁行列も行っていない私は人々に顔を知られていない。民衆に身を隠し頃合いを見て叫ぶ予定だ。
王都にある空き家に転移を設定して、何食わぬ顔をして民に紛れている。
皆一様に不安な顔をしていて、ひそひそと話しながら歩みを進めている。
「また魔物が人間を襲ったらしいよ」
「いつまでも暗黒期は続いているし……」
「今日は重大な発表があるらしいけど、何だろうか」
私も同じように不安げな顔を作って流れについていった。
王城まで到達すると既に大勢の民が集まっている。城の二階部分には大きなバルコニーがあって、そこで国王のありがたいお話が始まるのだろう。……漫画とかでよく見るようなギロチンとかはないな。首を乗せられている状態のまま待機だったら、いくら助けてもらえるとしても怖すぎる。
ポケットから懐中時計を取り出すと正午まであと十分ほどだった。私は広場を見渡してみる。バルコニーの下には緑のケープを着た青年たちが並んでいて、あれがきっと臨時魔法士だ。アルト様がやってきたらあそこから迎え撃つ作戦なのだろう。バルコニーにも何名かは並んでいる。残りは森前で待機と指令が出ているそうだけど、彼らはアルト様と一緒に来る予定だ。
王立騎士団の制服を着た者もいるけど、民の誘導などを中心に行って広場のすみにいる。対魔人戦には関わらせたくないのだろう。彼らは皆由緒正しい貴族の息子たちなのだから。
演説が始まって盛り上がってきたら、私の出番だ。リイラは安全な場所にいるとわかっているうえで、迫真の演技ができるかはちょっと不安なところだけど。父親の前で白目を向いた演技がもはや懐かしい。
ゴーンゴーンと、正午を知らせる鐘が鳴り国王が姿を現した。