孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 私はこの王がとても好きにはなれないけれど、それでもやはり国王なのだと思う。威厳のある風格に低くて通る声。民のために国が動く、その事実は民衆を沸き立たせるのに十分だった。
 ここから魔人が受け入れられる未来が作れるのだろうか。そんな不安がよぎるくらいには。

「そして暗黒期のたびに捧げている『白の花嫁』だが……今回は捧げる事が出来なかった」

 王の悲痛な声に、民からは疑問の声があがる。

「『白の花嫁』を騙る者が現れたのだ。その者は自分こそ『白の花嫁』だと主張し、国を謀った。そしてその結果、今に至るまで花嫁行列も出来ていない。例年より闇が深いのは魔人の怒りだ」

 でたらめばかりを並べる。でもそう言い切る彼の姿を疑う者はいないだろう。誰も『白の花嫁』の定義を知らない。いや、そもそも『白の花嫁』は誰だっていいのだから。

「彼女は身分を偽ってアロバシルアに入学までしていた。身分を偽り、国を謀るこの行為は彼女が魔人の一味なのではないかと考える。――リイラ・カタイストをこの場で処刑する!」

 どよめきが広がる。皆が動揺しているうちに私は民衆をかきわけてバルコニーに近づいていく。
 白い布を被せられた少女――もちろんリイラではない――は臨時魔法士に両手を拘束されながら前に出る。
「魔女め!」「魔女!」「太陽を返せ!」と民の声が響くなかで、私の声は聞こえるだろうか。

「待って!」私は喉が切れるのではないかと思うほどに大きな声を出した。やはり民の声にかき消されてあまり聞こえない。それならば……。
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