孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
最高級の布で作られたらしいドレスには宝飾品がたくさんついている。
ボブになった短い髪の毛も丁寧に結い上げられそこにもギラギラと宝飾品を飾られた。宝石をつけすぎて頭が重い。
薄く化粧をして、ヴェールが下ろされた。誰から見ても美しい花嫁だ。宝石がゴテゴテしているのはセンスはないけど、魔王への賄賂だから仕方ない。
私の荷物はほとんどない。お母様の形見のルビーのネックレスだけ身につけておいた。サンドラにもう奪われることもない。
「では行きましょうか」
お昼過ぎ、国王や有力貴族、聖職者に見守られて、騎士に誘導され馬車に乗り込んだ。案内役の騎士は六名もいて、絶対に逃がさないという圧を感じる。
馬車に揺られながら、そういえば魔の森がどこにあるのか知らないなと思った。
前回の暗黒期は二十年前だったし(重鎮たちの反応が気になったので一応調べておいたけれど、やはり二十年前に暗黒期は訪れていた)普段は別の世界に住んでいるのだから、若者は魔族を意識している人はいないだろう。
一時間は走った気がする。田舎の景色が一生続くのではないかという頃、馬車は止まった。
田園広がるどこにでもある田舎の隅にその森はあった。背の高い木が生い茂り、中はまったく見えない。
近づいてみると、物騒な雰囲気の森だ。有刺鉄線が張り巡らされて「立ち入り禁止!」と看板がいくつも立っている。
「すごいですね」と呟けば「結界も張ってありますから安心ですよ」と騎士はほほ笑んでくれた。……私は今からその中に入るのですが。
騎士の後についてくると大きな鉄門がある。騎士は何かお札みたいなものを取り出すと鉄門に貼った。その後に大きな錠前を空ける。
「どうぞこちらへ」と騎士が緊張した面持ちで門の中に入った。かなり警戒していていつでも剣を抜けるようにしている。……六人騎士がいるのは私の逃亡以外にも理由はあったみたい。
昼間のはずなのに、森はずっと夜のように暗い。誰かが作ったと思われる道が一応続いているのだけれど、その道はもう何年も誰も通っていないことがわかるほど荒れている。
嫁ぐことに初めて不安が込み上げてくる。だけど案内役の騎士たちが私を取り囲んで歩いているから、私も流されて歩き続けるしかない。
ヘンゼルとグレーテルみたいに来た道に光る小石を落としていった方がいいかもしれない。
しばらく歩き続けると、目の前に三メートルはある背の高い鉄門があわられた。奥を覗き込むが城らしきものは見えない。
「ここが魔王城です」