孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
結婚式に出るついでに、私たちはちょっとした旅に出ることにした。
転移魔法なんかは使わないで。魔の森の門から堂々と出発して、馬車や汽車を乗り継いで。
自由になったなら、好きな場所に出かけてみたい。そう思っていたけれど、この数ヶ月実現できないままでいたからちょうどいいタイミングだった。
「新婚旅行でしょ、今回は二人きりで行ってきなさいよ」とショコラが言うから、今回は二人だけの旅だ。
王都から出た私たちは海に向かうことにした。――何百年も昔に魔人が住んでいたという海の方へ。
それは建前でもあって、本音はお互い海に行ったことがないから純粋な興味だった。
「リイラ、きれいでしたね」
汽車を乗り継いで、海辺の近くの駅から私たちはのんびりと歩いていた。魔の森とはまた違う雰囲気の自然が広がっていて、少し磯の香りがする。
「アイノはいいのか?」
「何がですか?」
「花嫁にならなくて」
「え、私アルト様の花嫁のつもりでしたけど」
私が言うと、アルト様はなぜか口ごもり少しきまずそうに視線をそらす。
「……違う。結婚式だ」
「ああ!」
「通常、白の花嫁は花嫁行列を行うだろう。今回はそれもなく……その……何もしてやれていない」
「マティアス王子にお願いしたら、めちゃくちゃ盛大な花嫁行列してくれそうですよね」
魔の森に初めて向かう時に宝石をゴテゴテと頭につけられたことを思い出して笑みがこぼれた。
「やりたいか?」
「いや、全然いらないですよ! そもそも国のためにやるのもね」
「しかし」
「あ、そうだ。私、魔の森で魔物たちの前でしたいです。イルマル王国からの白の花嫁としてじゃなくて。そっちの方が魔王の花嫁っぽいでしょ」
今まで魔物とは全然触れあえていなかったのだ。暗黒期前は私は魔族として認められていなかったし、暗黒期がきて正式に花嫁になっても三区から出られなかったし。これからはたっぷりモフモフライフを送らせていただきます。
アルト様を見やると、目を丸くしてこちらを見ている。
「変なこと言いましたか?」
「いや、やろう。……ありがとう」
「これからは魔物とも関わっていきたいんです。色々教えてください」
「わかった」
アルト様は目を細めて私を見つめてくれる。最近こんな風に柔らかい表情をすることが増えた。
暗黒期が終わってから、肩の荷がおりたのか、あまり気を張らずにいてくれている気がする。アルト様のその変化が嬉しかった。
「あ」
「なんだ」
「手、繋いでいいですか。せっかくの新婚旅行なので」
返事の代わりに大きな手が私を包んだ。
転移魔法なんかは使わないで。魔の森の門から堂々と出発して、馬車や汽車を乗り継いで。
自由になったなら、好きな場所に出かけてみたい。そう思っていたけれど、この数ヶ月実現できないままでいたからちょうどいいタイミングだった。
「新婚旅行でしょ、今回は二人きりで行ってきなさいよ」とショコラが言うから、今回は二人だけの旅だ。
王都から出た私たちは海に向かうことにした。――何百年も昔に魔人が住んでいたという海の方へ。
それは建前でもあって、本音はお互い海に行ったことがないから純粋な興味だった。
「リイラ、きれいでしたね」
汽車を乗り継いで、海辺の近くの駅から私たちはのんびりと歩いていた。魔の森とはまた違う雰囲気の自然が広がっていて、少し磯の香りがする。
「アイノはいいのか?」
「何がですか?」
「花嫁にならなくて」
「え、私アルト様の花嫁のつもりでしたけど」
私が言うと、アルト様はなぜか口ごもり少しきまずそうに視線をそらす。
「……違う。結婚式だ」
「ああ!」
「通常、白の花嫁は花嫁行列を行うだろう。今回はそれもなく……その……何もしてやれていない」
「マティアス王子にお願いしたら、めちゃくちゃ盛大な花嫁行列してくれそうですよね」
魔の森に初めて向かう時に宝石をゴテゴテと頭につけられたことを思い出して笑みがこぼれた。
「やりたいか?」
「いや、全然いらないですよ! そもそも国のためにやるのもね」
「しかし」
「あ、そうだ。私、魔の森で魔物たちの前でしたいです。イルマル王国からの白の花嫁としてじゃなくて。そっちの方が魔王の花嫁っぽいでしょ」
今まで魔物とは全然触れあえていなかったのだ。暗黒期前は私は魔族として認められていなかったし、暗黒期がきて正式に花嫁になっても三区から出られなかったし。これからはたっぷりモフモフライフを送らせていただきます。
アルト様を見やると、目を丸くしてこちらを見ている。
「変なこと言いましたか?」
「いや、やろう。……ありがとう」
「これからは魔物とも関わっていきたいんです。色々教えてください」
「わかった」
アルト様は目を細めて私を見つめてくれる。最近こんな風に柔らかい表情をすることが増えた。
暗黒期が終わってから、肩の荷がおりたのか、あまり気を張らずにいてくれている気がする。アルト様のその変化が嬉しかった。
「あ」
「なんだ」
「手、繋いでいいですか。せっかくの新婚旅行なので」
返事の代わりに大きな手が私を包んだ。