孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 私はベリーがたくさん入ったものを食べた。ほんのり甘い生地から甘酸っぱくてとろりとした果実が出てきて自然と顔がほころぶ。
 そういえばクレープは家で作ったことがない、今度作ってみようかな。

「人が作ったご飯、最高!」
「アイノの作った方がうまい」
「ありがとうございます。でも、そういう問題じゃないんですよ。人が作ったものだからこそ得られるときめきがあります」
「そういうものか?」
「はい。あ、じゃあ今度アルト様作ってください。アルト様が作ったものなんて絶対ときめくので」

 私の言葉にアルト様は渋々といった様子で頷いた。自信がないのが見て取れるけど素直に頷くところが可愛い。
 きっと不器用ながら、頑張って作ってくれるに違いない。アルト様は私に結局甘くてお願い事を聞き入れてくれるから。

「また旅しましょうね、今度はショコラも」
「ああ」
「今回は気を遣ってくれましたけどねー。でもショコラも食べられたらいいんですけどね」

 自分でそう言っておきながら少し悲しくなって言葉が萎む。
 今までの暮らしを思い出すとちょっと寂しくなる。ショコラは私の料理をいつでも美味しい美味しいと食べてくれた。今だってもしショコラがいたなら「甘い! 美味しい! ふわふわぱりぱり!」と笑顔でかぶりついていただろう。
 ショコラが存在してくれるだけでいい。そう思っていたけれど、小さな光のショコラは表情も見えない。

「それなんだが……」
 アルト様はこちらに向き直ったが、次の言葉をなんと切り出そうか考えているようで結局「なんでもない」と話は終わってしまった。

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