孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
アルト様についていくと部屋の中はさらに暗い。ランプの火のゆらめきが照らしてくれているけど逆に怖い。壁に飾られている肖像画の目が動くんじゃないかと思ってしまうほど。
「アルト様、この家は?」
「俺の屋敷だ」
暗黒期が来るまでの私の住処かと思ったけど、魔王の屋敷?
中もたいして広くはない本当に普通の屋敷で、プリンシラ家よりもずっと狭い。
魔王と呼ばれる人の住処とはあまり思えないし、ゲームには魔王城があった。塔の一番上にリイラは閉じ込められていたし、そこらじゅうに魔人や魔物がいて彼らはアルト様の部下で……。
――そういえば、一度も他の者を見ていない。私を迎えに来たのだって、部下ではなくアルト様だった。
そんなことを考えているうちにリビングルームに通された。綺麗に掃除はされてそうだが、それ以外はやはり今にもゾンビが出てきそうなホラー映画のリビングルームだ。燭台の炎がゆらゆらと部屋を映し出す。
アルト様はソファに座り、向かいのソファに私も座るよう促した。部屋の隅から小型犬が現れてアルト様の膝の上に飛び乗った。……クリーム色のミニチュアダックスフンドに見える。魔物には見えないし、使い魔といえば黒猫やカラスなんかを想像するけど。
「お前は先程、俺の名前を呼んだな? どこでその名を知った?」
アルト様は唐突に質問をした。言われてみれば、門の前で大騒ぎした時に名前を叫んだ気がする。