孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「他の方は別の場所に暮らしているのですか?」

「それを人間が言うか」

 私の素朴な質問にアルト様の目が鋭くなったのを感じる。

「え?」

「アルト」

 ショコラがたしなめるように、まるで猫のようなひらりとした動きでアルト様の肩に乗る。そして私の方を向いて代わりに説明してくれる。

「魔人はアルトしかいないのよ。他の魔人はこの世界に一人もいない。魔物は森にたくさんいるけどね」

「えっ、そうなんですか」

 素直に驚いてアルト様を見ると、彼は立ち上がり冷たい目で私を見下ろしていた。目が合うとすっと逸らされた。

「ショコラ、屋敷を案内してくれ。俺は休む」

 そう言って振り返ることなく部屋から出ていった。

「ごめんね、あの子繊細なとこがあるから」

 短い足をトコトコと動かしてショコラが私の足元にやってきた。

「私が屋敷を案内するわ」

 小さな彼女はついてきて、と部屋から出ていくので私も後からついていった。
 廊下はやはり暗い。今はお昼時のはずなのに、夜だとしか思えない。


「今いた場所はリビングルーム兼応接間。こっちはダイニング」

 リビングルームの前にある扉を小さな前足で押すと、扉はギギと開いた。

「ゴホッゴホッ……」

 扉が開いた瞬間、目に見えるほどの埃が舞い立つ。

「ここはダイニングなんだけど、開いたのはもう二十年ぶりかも」
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