孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
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「あの娘の言うことは本当だと思うか」
自室のロッキングチェアに腰掛けたアルトは膝の上でくつろぐショコラに聞いた。
「そうね。人間に換算するとあなたは十八歳。そろそろ暗黒期が来てもおかしくない。それにあなたもわかるでしょう。花嫁が必要、と思っている時点で本物だと」
「そうだな」
怒りで噛み締めた唇から憎々しげな声が漏れた。
「あの子はあなたの家族を殺した人間ではないわ」
「わかっている」
「じゃあ人間だから、とくくらないことね。そうやって分けられるのを一番嫌っているのはアルトでしょう」
「そうだな。――しかし娘に対して警戒は必要だ。国の手先の可能性がある」
「そんな感じには見えなかったけど。あまりにも魔族の現状を知らない反応、あなたの花嫁に立候補したがること、侯爵家令嬢なのにボロボロの身体、それら全てがあなたを騙すための演技なら今度こそ魔族は滅びるかもね」
「ああそうだな。でももうそれでもいいか……俺は疲れたんだ」
「また始まった。まあイルマル王国に対して警戒を強めておくのは必要ね。結界を強めておくわ。じゃあおやすみなさい」
ショコラはアルトの膝の上から飛びおりて、そのままスタスタと部屋を出ていった。
一人残されたアルトは重いカーテンを開け、窓の外を眺めていた。