孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 ダイニングはきれいに掃除したけれど、暗い食堂は「最後の晩餐」て感じだ。洋館に閉じこめられて疑心暗鬼のなか、食事中に一人が毒に倒れる。そんなダークでミステリーな雰囲気が漂っている。

「この屋敷はもう全部がホラー映画の舞台みたい」

 ダイニングの奥に行くと、キッチンがあった。……乙女ゲームの舞台なだけある。デザインだけはアンティークだけれど、機能面はわりと近代的なキッチンだ。
 現世で食事を作ったことはあっても、侯爵令嬢アイノの十六年間でキッチンに入ったことはない。

 料理の知識はあるけど、この時代の調理に自信はない。
 蛇口をひねれば水が出てくるし、スイッチを押せば炎が出た。乙女ゲームのご都合世界観に感謝だ。食器棚の隣には冷蔵庫のようなものまである。ショコラはたくさん買ってきてくれたみたいで冷蔵庫はパンパンに詰め込まれていた。

「どう? 使えそう? 魔道具の使い勝手はいいはずよ」

魔法は全てを解決する、ありがとうございます。

「ありがとう、問題ないわ! ねえよかったら一緒に食べない? 食べられないってわけじゃないんでしょ」

「じゃあ頂こうかしら。手料理なんて二十年ぶりだわ」

「犬って何食べるんだっけ? ドッグフード以外だと……」

「人間の食べ物でいいわよ。私、別に犬でもないし」

「えっ?」
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