孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
意外とアルト様は人間っぽい。
人間ぽいというのも変な話だけど、ゲームのアルト様はなんというか人間みがなかった。
どのルートでもリイラを執拗に追いかけてくるヤンデレだったし、自分のルートでも平和な時間はほとんどなく、基本リイラを命がけで守ったり熱烈に愛したり、なかなか刺激的な場面しか思い出せない。
目の前にいるスローライフアルト様とヒロイン溺愛ヤンデレアルト様は重ならない。すごく生きてる人っぽい。
「今度人参のポタージュ作ります。なめらかになるまですりつぶすので、苦手な人でも美味しく食べられるますよ」
「だから嫌いではない」
アルト様は今日も完食してくれた。それが嬉しくて、明日のご飯が楽しみになる。
「あっそうだ。そろそろ食料が尽きそうだから、買い出しをお願いしてもいいかしら」
「明日行ってくるわ、人参も買ってくるわね」
同じく完食してくれたショコラがアルト様を見てにやりと笑う。そして、扉に向かって手を伸ばすとダイニングの扉が勝手に開き、おそらくリビングルームから紙、ペン、インクがゆらゆらと飛んできた。
「前から気になっていたんだけど、ショコラもアルト様も魔法使うときに呪文を唱えないよね」
「魔人と……使い魔は魔力が高いから必要ないわね。そういえば人間は呪文を唱えないと魔法が発動しないんだったわね」
「そうなの、私は半年で学園を辞めてしまったからあまり魔法が使えなくって。基礎中の基礎の魔法しか使えないの」