孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜

「もうやめておきます。無駄にしたら嫌ですし。フォークで潰したり、みじん切りにすればいいので」

「貸してみろ」

 ボウルとフライパンから、人参と玉ねぎが浮かび上がる。ふわふわと浮遊したそれらを操っているのはもちろんアルト様だ。
 アルト様の指の向きが、野菜からキッチンに転がっている鍋に移動すると、野菜たちは風に乗り細かく刻まれながら鍋に向かっていく。
 鍋もふわふわと浮遊し、野菜たちを受け止めながらコンロの上にお行儀よく座ってくれた。

 コンロ前に移動して鍋の中を見ると、人参と玉ねぎはペースト状になっている!

「わ、すごい! アルト様! ありがとうございます!」

 振り向くと怒ったような顔をしたアルト様と目が合った。

「アルト様の魔法ってすごく綺麗。今のは攻撃魔法使ってないですよね? 何を使いましたか?」

「攻撃魔法は威力が高すぎる」

「風魔法でしたよね?」

「ああ。高速回転させただけだ。風魔法を使って粉砕したかったのだろう?」

 アルト様はめんどくさそうに目をそらすけど、質問には答えてくれる。

「この攻撃魔法は切り刻むと書いてあったので、ぴったりかなと思ったんですが」

 魔法書を見せてみるとアルト様の表情は苦々しく変化する。

「よくこの呪文を唱えてこの程度で済んだな」

「ダメでしたか?」
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