孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 私が喜ぶといつも目をそらして口をぎゅっとつむぐ。それが照れ隠しだと気づいてからはその仕草が可愛くて仕方ない。だから何度でもありがとうと言いたくなってしまうのも仕方ない。

「これは?」

「ラディッシュを育てようと思いまして」

「ラディッシュ?」

 アルト様は私の隣に屈んでプランターの中身をじっと見始めた。


「まだ今種を植えたばかりなので、ただの土ですよ」

「そうか」

「良かったら種まだあるので、植えてみますか?」

「ああ」

 ん? 頷いた?
 絶対断られると思って提案したから、素直に頷くアルト様に正直驚いた。気が変わらないうちに、アルト様の目の前に細長い木の箱を置いた。この箱をプランター代わりに使っている。

「もう土は作っているので。土をこの箱――プランターの中に入れてもらえますか」

「わかった」

 私は先ほど用意していた土の山を指さした。アルト様が土の山に手を差し出すと、土たちはサラサラと浮遊してプランターに移動していく。私がさっきスコップで何分もかけた作業がものの十秒で完了した。
 アルト様は想像以上にやる気みたいで私の指示を大人しく待っている。

「次に水をかけて土を湿らせます」

 アルト様の手から水のシャワーが優しくこぼれ出て土に染み込んだ。

「じゃあ、次はいよいよ種まきです。見てて下さいね」
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