孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 私は人差し指を一センチほど土にうずめた。小さな溝ができ、そこから一センチ開けたところにまた同じように溝を作る。

「こうして一定の間隔をあけて種のおうちを作っていくんですよ」

「わかった」

「あ、これは魔法を使わないでやってみてください」

「なぜ」

「土にスポ、スポってする感触が楽しいからですよ」

 アルト様は一瞬怪訝な顔をしたが、言われた通り黒い手袋をはめたまま土に指をうずめる。

「どうですか? 楽しいでしょ?」

「楽しくはない」

 そう言いながらもアルト様はリズミカルに溝を作っていく。

「あえて手作業でやる方が楽しいこともあるんですよ。次の種まきもそうしませんか?」

 種を包んでいた紙を開く。一ミリほどの小さな種がジャラッと広がっている。

「これが種なのか? 小さいんだな」

「そうなんです。これをさっき作った溝に入れていきましょう」

「わかった」

 長い指が種を掬い、溝の外に零れないように慎重に入れていく。

「私ぐうたら人間なんですけど、こうしてゆっくりじっくりする作業は好きなんです。なんだか心が落ち着くんですよね」

「わかる気がする」

「やった、わかってもらえた! 次は土を軽く被せましょう」

「布団のように、か」

 なんだか可愛い言葉が聞こえてきてアルト様を見ると、アルト様自身も自分で発した言葉になんだか驚いている。
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