孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「そうですね、優しくかけてあげましょう」

「……母の言葉を思い出した」

 耳を赤くしたアルト様は慌てたように言った。ぶっきらぼうな言葉と裏腹に土をかける手は優しい。

「アルト様のお母様?」

「そうだ。俺の母は土いじりが好きだった」

「そうなんですね!」

 それで家庭菜園に興味を持ってくれたのか。アルト様が自分自身について触れてくれたのは初めてで、少しくすぐったい気持ちになる。隣に座ることを許可してもらえた気がした。

「お前は園芸もやらされていたのか?」

「いえ、全くです。庭掃除はよくしていましたけど。
でもせっかくお庭も広いですし、挑戦してみたい気持ちがあって」

「書斎にガーデニングの本がある」

「お母様のものですか?」

「そうだ」

「読ませてもらいますね! そうだ、アルト様も一緒にやってみましょうよ!」

「俺が?」

 いつものように眉間にシワを寄せてアルト様は私を見るけれど、これは拒絶の表情ではないはずだ。

「はい。ガーデニングは魔法の力もあれば便利ですしね! 一緒にやってください!」

「魔法を言い訳にするなら魔法講座の時間にするぞ」

「はい、それでもかまいません! 私も初心者なのでゆっくりやりましょうね。とりあえずラディッシュの種まきはこれで完成なので最後にお水をあげましょう」
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