孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「家の中なので、灯りくらいがいいなと思って」

 私の答えにアルト様は満足気に頷いてくれる。やった、正解みたいだ。嬉しい。

「魔法はイメージが大切だ。呪文自体は重要ではない。発生させる呪文さえ唱えれば、あとは言葉に頼らずにイメージを膨らますんだ」

「じゃあこの蝋燭くらいの火から、魚を焼くイメージに変更すればいいということですか?」

「そうだ。ここに炎を伸ばすイメージでやってみろ」

 アルト様は私から一メートル離れた場所にいて、魚を構える。シュールな絵面だ。
 私は魚に手を伸ばす。イメージ、イメージ……。ええと……そうだ、たいまつ。たいまつをイメージしよう。ぼおっと音が鳴るくらいのたいまつの炎。

「ルーナ・リエーキン」

 もう一度呪文を唱えると、イメージした通り。一メートル先まで届く炎が出た。
 アルト様は頷くと無言でその炎で魚を炙っている。やっぱりシュールな絵面だ。

「何を笑っている」

「えへへ、成功したのが嬉しかっただけですよ。――あ」

「集中力が足りないからだ」

 私の手から放たれた炎は消えていた。これではまだ魚は生魚のまま。

「イメージが途切れちゃいましたね」

「もう一度できるか?」

「はい。ルーナ・リエーキン」

 一度出現させたものだから、再現しやすい。先程と同じくらいの火が現れて、アルト様がすかさず魚をかざして炙っていく。
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