孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「じゃああっちの土に植えませんか、この子たち。あまり育たないかもしれませんけど」
私は庭の奥を指さした。土が盛り上がっている場所が見える。
プランター栽培の次は小さな畑を作ってみようと思って、少し土を耕しておいたのだ。
まだ植えるものは未定だったし、この子たちをうつしてもいい。
「そうしよう」
アルト様は、先ほどまでつついていた芽をもう一度優しくつついた。すぽんと芽は抜けて、私が指さした方向に移動していく。他の芽たちも続いていった。
「間引きすると、根が傷ついてしまうからダメになるんですけど。このアルト様の優しい魔法なら場所を変えてうまく育つかもしれません」
「そうだといいが」
「ふふ」
私たちは立ち上がって飛んでいった芽たちを追いかけた。彼らは行儀よく整列して土につかっている。
「お布団かけてあげましょう」
私が言うとアルト様は座り込み、魔法ではなく大きな手で一つずつ丁寧に土をかけていく。
その手が優しくて、お母さんが布団をかけてくれた日のことをなぜか思い出してしまった。
「ここは日が当たるが、いいのか?」
「芽が出たので大丈夫ですよ。プランターも日があたる場所に移動させましたしね」
「わかった」
「アルト様は植物が好きですか?」
「まあ……嫌いではないな」
「動物も好きそう」
「嫌いではない」
全てに土をかけ終えたアルト様は汚れた手袋をはたいて答えた。
「そういえば魔物ってどんな子なんでしょうか? 実物を見たことがないんです」
「見るか?」
アルト様の青い瞳が私を見上げた。目が合って私はすぐに頷いた。
「会いたいです! 会えるんですか?」
「二区に行けば何匹もいる。明日、予定はあるか?」
「予定がある日なんてないですよ。この子たちの水やりくらいですね」
「じゃあ明日の十時に」
「出張魔法講座ですね!」
用が終わったアルト様は立ち上がり、屋敷に戻ろうとして――。
「水やりをしなくては」とすぐに戻ってきた。柔らかいシャワーが、間引かれて消えていくはずだった子たちに降り注いでいった。