孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
きっと動物の熊とか、ライオンみたいなものなんだろう。不用意に近づくと危険だけど、きちんと住むべき場所をわければ攻撃対象にはならないのだ、お互いに。
「魔王などいない」
アルト様は言い切って、私をもう一度見た。
「何百年も前。魔人がたくさんいた時は、魔人を統べる王もいたみたいだがな。
ここ最近――といっても数百年だが。最近の魔人は魔物の管理者なだけ、だ」
「魔物の管理者?」
「そうだ。大半の動物は繁殖期がくれば気性が荒くなる。魔物も例外ではない。そんなときに人間の世界に出ないよう、暴れないよう、魔力で抑えているんだ」
「人間の魔族のイメージとは真逆ですね」
魔人は魔物を武器のように使い、人間を襲わせる。そんなイメージがある。私だってサンドラを脅すときに、八つ裂きにすると言ってしまったのだから。
「無知からの恐怖で悪だと決めつけただけだ。魔人は魔物から人間を守っている。まあ、正確にはそれも魔物を守るためだ。魔物が人間を襲うと、魔物全体が攻撃されてしまうからな」
「そうだったんですね」
アルト様が生きている理由がわかった。死にたがりらしい彼が死ぬに死ねないのは、ここにいる子たちのためなのだ。アルト様がいなければ、彼らは人間の住処に近づいてしまい……きっと滅ぼされる。
「それじゃあやっぱりアルト様は子孫を作った方がいいのではないですか?」
「心配せずとも魔人は長生きだ。俺が死ぬまでにはこいつらが暴走しない魔法を完成させる」
「毎日部屋にこもっているのは研究をしていたんですね」
次から次へと撫でて! とやってくるモフモフ魔物たちに囲まれながらアルト様は頷いた。
「私、魔法もっとがんばりますね!」
暗黒期になると、アルト様も動物の本能が抑えられなくなる。この子たちを守るために、私も魔力をあげないと!
「ああ」
柔らかく肯定してくれたのが嬉しくて私はモフモフ魔物たちをワシャワシャ撫でた。