孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜


「リイラを残していくのは本当に心苦しかったのだけど」
「そんな、私のことは気にしなくていいの。それにアイノがいなくなってから、サンドラ様は私に話しかけることがなくなったのよ」
「本当に!? それならよかった」

 ああ、よかった! 最後の夜の脅しはちゃんと効いていたらしい。リイラがまだ虐められ続けていたらどうしようかと心のしこりが残っていたのだ。

「とにかく私は元気でやっているから、心配しないで」

 私が笑顔を向けると、リイラは心から安堵した様子で笑顔を返してくれた。

「ああそうだ。あなたと仲良しの王子様には秘密にしてくれないかしら。実は私、お父様にも黙って出てきたのよ。プリンシラ家に居場所を知られたくないの。あなたの王子様に他意はなくとも、国王から私の父に伝わることがあるから」

「わかったわ。今日の事は心に秘める。ねえアイノは今はこの街に住んでいるの? これからも会えるのかしら」

 無邪気な笑顔でリイラは尋ねた。――これからも会う? それは困る。とても困る!
 ヒロインの運命力を舐めてもらったら困るのだ。この家の二階と我が家の二階は繋がっている。暗黒期即うっかりアルト様と鉢合うことになったら大変だ。白の花嫁がリイラになってしまうじゃないか!

「もうこの街では会えないの! 実は……そう、私は旅をしていてあちこちをまわっているの。今回はたまたまこの街に立ち寄っただけ」
「……そうだったのね」
「落ち着いたら私から会いに行くわ、必ず。だから心配しないで、お願い」
「わかったわ」

 リイラはようやく納得した様子で、また笑顔を向けてくれた。

「アイノ、なんだかきれいになったね。今のおうちで幸せにしてるんだね」
「うん。今、幸せだよ」

 久々にあった唯一の友人に嘘ばかりついてしまったけれど。これだけは紛れもなく、本当の気持ちだった。
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