孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
アルト様が手をかざすと、暗い庭がパッと明るくなった。庭のあちこちにキラキラと魔法が点灯し、前世でみたイルミネーションよりずっと美しくて儚い幻想的な空間だった。
「歩くか」
アルト様は私の方に腕を突き出す。……これは腕を組んでもいいということかしら。アルト様の腕にそっと触れる、何も言われないから彼の腕に自分の手を添えた。
アルト様はゆっくりと歩き出す。いつもからは考えられない程の小さな歩幅で。
「寒くないか」
「はい、全く。ショコラがくれたケープ本当にあったかいです」
首元のファーがもこもこであったかい。でもファーのおかげだけではない。さっきからずっと暖かなのだ。ずっと隙間風が吹いていた胸に、暖かなものが流れ込んできて冷めることがない。
屋敷の前にある庭を越えて、普段入ることのない森にアルト様は歩みをすすめた。よく見ると小さな道があり、光の粒が導くように照らしている。こんな道があったことを知らなかった。なんとなく森には入れなかったから。
しばらく進むと、木々が途切れて開けた場所に出た。
寂れて全く手入れされていないけれど、ここにはかつて庭があったのだろうとわかった。
奥には大きな屋敷……いや、お城だろうか。古びた大きな建物は朽ちていた。窓ガラスもなく、雨ざらしになった寂れた城だ。建物の中にも植物が生い茂りとても人が住める状態ではない。