孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「そろそろ休憩しましょうか。お弁当も持ってきましたから」
たくさんの苗を仕入れてきたので一日作業になる。屋敷は五分もあれば帰れるのだから、たまにはこういうのも新鮮でいいでしょう!
春の日差しが強いので、私たちは大きな木の下に腰かけた。陰になるここは涼しく風も気持ちいい。
「お弁当といえば、サンドイッチですよね」
紙袋の中からサンドイッチを取り出して手渡す。野菜とハムを挟んだだけの簡単なものだけど、働いた後、太陽の下で食べるご飯ってなんでこんなに美味しいんだろう!
「うまい」
「良かった。外だと更においしいですよね」
素っ気ない口調だけど、最近素直にほめてくれることが増えた。くすぐったい気持ちを隠すようにかぶりつく。
「なんだか眠くなってきました」
春の風が心地いい。光が少しだけ遮られたこの場所で満腹。昼寝の条件が揃ってしまっている。
「ふぁぁ」
あくびをこぼすとアルト様がこちらを見ていた。黒いさらさらの髪の毛が陽の光で透ける。私を見る瞳は春の光のように優しい。……こんな風に見つめられると落ち着かない。
「ちょっと休憩しませんか……!」
穏やかなまなざしから逃れるように私は目を瞑った。「眠くなってしまいました」
「ああ」
「アルト様もどうですか?」
「俺は本でも読んでいる」
「持ってきてたんですか」
「いや、今から呼ぶ」
「なるほど……じゃあちょっとだけ休憩しちゃいましょ」
時間だけはたっぷりあるのだ。春の眠気に誘われたまま少しだけ眠る贅沢を味わいたい。ああ、本当に眠くなってきた……。