まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
 彼女がどんな顔をしてこの本を読んだのかと思うと、知りたいような知りたくないような曖昧な気分にさせられた。

 挿絵の絡み合う男性ふたりを睨んでいたら、ジルフォードが思いもよらないことを言い出す。

「おそらく妃殿下は、私と殿下が恋仲にあると勘違いされているのではないでしょうか」

 声も出せないほど驚いて、見開いた目に真面目な顔の近侍を映した。

 くだらない戯言は口にしない相手に、「冗談だろ?」と聞き返してしまう。

「そう思いたいものです。ですが勘違いなさっているとすると、すべてに説明がつきます」

「たしかに……」

 アドルディオンの訪問を迷惑に思っているなら、最初から適当な口実で断るか、居留守を使えばいい。

 しかしパトリシアは『お越しくださいましてありがとうございます!』と弾んだ声で歓迎し、途中退席してジルフォードとふたりきりにするのだ。

 男ふたりになった部屋に人払いまでするのは、ジルフォードの推測以外の理由を思いつけない。

 妻にそのような目で見られていたのかと思うと自分が情けなく、叔母を恨んだ。

「叔母上は余計なことを」

 すると近侍にじっと見られる。

 ジルフォードがそのような目をするのは、主君に注意を与える時だ。

「誤解の原因は殿下にもおありになるのでは? 離宮に閉じ込め寝所に呼ばず、妃殿下はその理由をお考えになられたのでしょう」

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