まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
 至近距離にある美麗な顔はベッドの中で見るより精悍で、高鳴る鼓動を抑えられない。

(ドキドキが伝わってしまいそうで恥ずかしい)

 ソファにそっと下ろされ並んで座ると、彼の眉尻が下がった。

「君を退室させてから公爵とやり合うべきだった。怖い思いをさせてすまない」

「殿下に謝られると困ります。ハイゼン公爵を怒らせても、守ってくださったのに。私はどれだけのご迷惑をおかけしてしまったのでしょう。嘘をついて本当に申し訳ございませんでした」

「嘘をつかされていたんだ。君の落ち度ではない。今までよく耐えたな。本当に貴族なのかと疑う者がこれまでいなかったのは、君の努力の成果だ。感心する」

 ただの村娘が一年で貴族令嬢らしくなるのがどれだけ大変なのか。それを察してくれる彼は優しい目をして、大きな手を妻の頭にのせた。

「今後は気を楽にして暮らせるよう取り計らおう」

 撫でられる心地よさにうっとりしかけたが、ハッとして首を横に振った。

「いいえ、今後はより一層、気を引き締めなければと思っています」

 パトリシアの出自に関してアドルディオンは、他言無用だと公爵に命じていた。

 やはり伯爵の庶子である事実は隠した方がいいのだろう。

 真実が広まれば、不適格な娘を妃に選んだと陰で嘲笑されるかもしれない。

 次期国王となる彼は尊敬されなければならない立場なのに、それでは困るのだ。

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