まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
眩しい記憶と愛し合う夫婦
ハイゼン公爵の登城を差し止めてからひと月半ほどが過ぎ、紺碧の秋空には黄色い満月が輝いている。
アドルディオンは帰路の途中で馬車に揺られていた。
先ほどまで叔母が嫁いだ侯爵家で満月とワインを楽しむ男性貴族限定の夜会が催され、それに招待を受けて参加していたのだ。
貴族たちから変わらぬ支持を得るためには、付き合いも大切にしなければならない。
有力貴族の多くが招かれていたその夜会で、ハイゼン公爵家からは次男がやってきた。
(他の貴族たちは公爵家の次男に話しかけにくそうにしていたな。ハイゼン公爵の処分を公にはしていないが、なにか問題があって登城できないのに気づいているようだ)
あらゆる方面に影響力のある公爵家とは敵対関係になりたくないが、健気な妻を罪人にはしたくなかった。
公爵を処分した自分の判断を肯定するために、いいきっかけだったと前向きに捉えることにした。
平民を軽んじる公爵の政治姿勢には以前から困らされてきた。
王家が頂点にいるとはいえ、国政は男性貴族で構成される議会が動かしている。
ハイゼン公爵が反対するせいで通らなかった、平民のための法案がこれまでにいくつもあったのだ。
(公爵家の力が弱まれば、もう少し民に寄り添った政治ができる。しかし完全排除はしてはならない。公爵に味方する貴族は少なくないから、その者たちにまで反意を向けられ内乱の引き金になるだろう)
ハイゼン公爵の政界復帰のタイミングについて考えていると、いつの間にか馬車が城内の大邸宅前に着いていた。
乗車している王族の許可があるまでドアを開けてはならない決まりなので、従者を寒空の下に待たせてしまった。
急いで降車を伝えるとドアが開けられ、踏み台が用意された。
石畳に足をつけると、冷たい夜風が銀色の髪を揺らした。
(夜になるとずいぶん寒くなった。パトリシアが風邪を引いたらいけないな。寝室の毛布を暖かいものに取り替えよう)
妻の顔を思い浮かべると、自然と口角が上がる。
多くの貴族令嬢が社交界の中で身に着けるしたたかさや狡さがパトリシアにはない。
アドルディオンは帰路の途中で馬車に揺られていた。
先ほどまで叔母が嫁いだ侯爵家で満月とワインを楽しむ男性貴族限定の夜会が催され、それに招待を受けて参加していたのだ。
貴族たちから変わらぬ支持を得るためには、付き合いも大切にしなければならない。
有力貴族の多くが招かれていたその夜会で、ハイゼン公爵家からは次男がやってきた。
(他の貴族たちは公爵家の次男に話しかけにくそうにしていたな。ハイゼン公爵の処分を公にはしていないが、なにか問題があって登城できないのに気づいているようだ)
あらゆる方面に影響力のある公爵家とは敵対関係になりたくないが、健気な妻を罪人にはしたくなかった。
公爵を処分した自分の判断を肯定するために、いいきっかけだったと前向きに捉えることにした。
平民を軽んじる公爵の政治姿勢には以前から困らされてきた。
王家が頂点にいるとはいえ、国政は男性貴族で構成される議会が動かしている。
ハイゼン公爵が反対するせいで通らなかった、平民のための法案がこれまでにいくつもあったのだ。
(公爵家の力が弱まれば、もう少し民に寄り添った政治ができる。しかし完全排除はしてはならない。公爵に味方する貴族は少なくないから、その者たちにまで反意を向けられ内乱の引き金になるだろう)
ハイゼン公爵の政界復帰のタイミングについて考えていると、いつの間にか馬車が城内の大邸宅前に着いていた。
乗車している王族の許可があるまでドアを開けてはならない決まりなので、従者を寒空の下に待たせてしまった。
急いで降車を伝えるとドアが開けられ、踏み台が用意された。
石畳に足をつけると、冷たい夜風が銀色の髪を揺らした。
(夜になるとずいぶん寒くなった。パトリシアが風邪を引いたらいけないな。寝室の毛布を暖かいものに取り替えよう)
妻の顔を思い浮かべると、自然と口角が上がる。
多くの貴族令嬢が社交界の中で身に着けるしたたかさや狡さがパトリシアにはない。