まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「ご明察にございます」

 パトリシアには心を楽に暮らしてもらいたいので、真の出自を隠し続けるつもりはない。

 しかし一気に訂正を発表するわけにいかない事情がある。

 ハイゼン公爵のように、王家を謀ったのだから処罰しろとの声が他の貴族からも上がる恐れがあるためだ。

 それゆえ段階を追って知る者を増やしていこうと考えていた。

 まずは絶対的にこちらに味方してくれると思われる親王派の貴族からだ。

 懸念を示しそうな貴族には旨味を与えて取引し、受け入れさせる。

 一般国民はその後になる。

 相手がどう捉えるかの見極めや、手間のかかる根回しをジルフォードに任せていた。

 パトリシアも侍女もジルフォードに深く感謝しており、特に侍女はそれ以上の好意も抱いているらしい。

 それが恋心なのか、ただ懐いているだけなのかは知らないが、毒見と理由をつけてまで自分も作るのを手伝ったマフィンを食べてもらいたかったようだ。

 ジルフォードが断らずに食べてくれそうな理由を考えながら、妻が侍女とはしゃいで菓子作りを楽しむ様子を思い浮かべ、アドルディオンはムッとした。

(パトリシアは俺のためではなく、ジルフォードのために焼いたのか。面白くないな)

 口に出してはいないのに近侍に心を読まれる。

「ですから謝罪しております」

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