まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
 遅くまで仕事をする日が多いため、晩餐をともにできる日は少ない。

「楽しみにしています」

 約束をすれば心からの笑顔を見せてくれるから、近いうちに必ず実現させようと頭の中でスケジュールを確かめた。

「パトリシアは今日、なにをしていたんだ?」

「私は午前中に孤児院に行ってきました」

 来月の収穫祭に向けて子供劇の練習中で、観に来てほしいという内容の拙い手紙が届いたそうだ。

「すごく楽しかったです」

 真面目な子にお調子者、目立ちたがり屋に恥ずかしがり屋、子供たちはひとりひとり個性があって皆が輝いていたと教えてくれた。

 何度も慰問しているため、孤児院の子たちはすっかりパトリシアに懐いている。

 平民として生まれ育った彼女だからこそ、子供たちと心を通わせることができるのかもしれない。

(パトリシアとなら、同じ方向を見ながら一緒に国を治めていけそうだ)

 歴代の中でもっとも国民に支持される国王夫妻にいつかなれたらと期待した。

 午後は母親の見舞いと謁見を二件こなし、毎日何通も届くご機嫌伺いの手紙に律儀に返事を書いていたという。なかなか忙しい一日だったようだ。

 話しを聞きながらマフィンを口にする。

 就寝前に食べるからか、バターと甘さが控えめで優しい味わいだ。

(癒される。結婚前は妻とこういう時間が持てるとは、夢にも思わなかった)

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