まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
 ハーブティーにホッと心を緩ませると、眠気も感じた。

「美味しかった。また作ってくれ」

「はい!」

 張り切った返事をする妻の手を取り、立ち上がる。

「パトリシア、ベッドへ行こう」

 なるべく淡白にさりげなく言ったつもりだが、彼女が恥ずかしそうに目を逸らしてわずかに緊張した顔をする。

(やめてくれ。手を出したくなって困る)

 ひと月半ほど前、進水式に夫婦で出席した帰路の馬車でパトリシアが好意を伝えようとしてきた。

『私は、殿下をおし――』

 嬉しかったのだが、その気持ちを超えて困ると感じ、続きを言わせなかった。

『また会えるよ。必ず迎えに来るから信じて待っていてくれ。クララを俺の妃にすると決めたんだ』

 果たせなかった約束と輝く命を奪った罪悪感。それらが妻との距離をこれ以上縮めさせてくれない。

 パトリシアを愛してはならないと、今も心のなかで自分を戒めた。

 葛藤を悟られないよう平静を装いベッドに入る。

 共寝にまだ慣れない様子のウブな彼女は、ほんの少しためらってからガウンを脱ぎシーツに腰を下ろした。

 しかし横にならず、迷っているような横顔を見せる。

 恥ずかしいだけではないようで、心配したアドルディオンは身を起こした。

「どうした? 困りごとがあるのか?」

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