まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
「俺は女性をソファで休ませるような男ではない。ともに寝るのが嫌だというのなら、俺がソファを使う」

「えっ?」

(嫌だと思っているのは殿下の方でしょう?)

思いがけず気遣われて驚くと同時に、恐れ多いとすぐさま遠慮した。

「殿下にそのようなことをさせられません」

「そう思うのなら、ふたりでこのベッドを使おう。君が構わないのであれば」

パトリシアの手首を掴む手に力が込められた。

一緒に寝ようと積極的に誘われているような気がして頬が熱くなる。

不機嫌そうに見えたのは気のせいだったのかと思い直し、嫌われていなかったことにホッとしてほんの少し微笑んだ。

「私は少しも嫌ではありません。殿下がお嫌なのではないかと思ったのです。目を合わせていただけなかったので……」

「そうか。勘違いさせてすまない。このような場合、どういう顔をすべきなのかと考えていただけだ」

(えっ、もしかして)

自分と同じように夫も気恥ずかしく思っていたのだろうかと目を瞬かせる。

いつも堂々として気高い王太子の彼が、恥じらうような性格には思えないが。

心情を読み切れず困惑しているパトリシアに、アドルディオンがわずかに口角を上げた。

サイドテーブルに置かれたオイルランプの火を弱めた彼はベッドの奥側に寝そべり、今度は目を逸らさずに妻を誘う。

「寝よう」

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