まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
「大変光栄に思いますが、実は私の嫁ぎ先はすでに決まっているんです」

「相手は誰だ?」

「グラジミール卿です」

「へぇ」

今までよりは関心がありそうに彼が頷いた。

「娘を溺愛するあまり領地で大切に守り育て、社交界デビューが遅れたと聞いていたが。クラム伯爵の愛情とは娘の幸せではなく、己の利権に向けられたものなのか」

グラジミール卿の名を出しただけで、クラム伯爵の狙いが読めたらしい。

クッと笑ったのは、深窓の令嬢などという噂を広めたことに呆れているせいなのか。

父親から少しも愛されていないのを見抜かれてしまい、パトリシアはバツの悪い思いで目を逸らした。

(お父様に初めて会った時から愛されていないのはわかっている。今さら悲しいとは思わないけど、人に指摘されるとみじめな気分になるわ)

「グラジミール卿がどのような人物か、聞いているのか?」

「はい。私と歳の差がかなりある方で、二度の離婚歴があるのは知っています。前妻のおふたりに逃げられたと聞いています」

「逃げられたというのは語弊がある。折檻死寸前の妻たちが、実家の両親に救出されたんだ」

「えっ……」

「君もそうなるぞ。嫁ぎ先でひどい目に遭っている娘を、クラム伯爵が助け出そうとするかはわからないが」

父が助けてくれるとは思えない。ということは、グラジミール卿に嫁げば待っているのは折檻死だ。

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