財閥御曹司とお見合い偽装結婚。



 その人と恋人になりたいとかそんな贅沢は言わない。だけど、縁談が決まって結婚してしまえば彼を見つめて小さい幸せを感じることなどできないだろうと思う。それは旦那さまに失礼だと思うし。


「本当にごめん。采羽には自由に生きなさいと言ってきたのにこのようになってしまって」


 お父様は私に頭を下げた。そんなこと今まで、されたことなかったのに……それだけ断ることは不可能なのだということが確実だ。

 私が覚悟ができていないなんて言っている場合じゃない。私が断ったせいで、お父様や、お兄様たちのお立場が悪くなるのは避けたい。



「……お父様、頭を上げてくださいませ。分かりました。せっかくのご縁ですもの、お受けいたします」


 私はお父様に微笑んで「お見合いはいつあるのですか?」と問けば、一つのメモ用紙を私に差し出す。


「日にちは、一週間後の日曜日。ちょうどお昼の十二時で、奥多摩にあるラグジュアリーホテルだそうだよ。廃業された旅館をリノベをしてリニューアルしたホテルだと言っていたな」

「そうなんですか……じゃあ、お見合いで着るお着物を見てみなくてはいけませんね」

「あぁ、だが、それは問題ない。お祖母様から采羽へと贈り物だそうだ」

「……お祖母様から?」

「あぁ。後で采羽の部屋に運ばせるが……」


 お父様は桐箱を開けてくださったので私は、たとう紙に包まれている着物を取り出す。紐を解き、開くと淡いピンク色で古典柄の手毬と花々が可愛らしく咲いていて見ただけでもわかる上質な正絹の生地のものだ。

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