凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
プロローグ

【プロローグ】

 夢を見た。
 幸福だった頃、そんな過去のひとひら。

 大好きな宏輝さんと彼の双子の姉の美樹さんが本当の兄姉だと信じていた、そんな幼いころの夢。
 私は彼らの家の、使用人の娘にすぎなかったのに。
 大切に優しく慈しまれて、本当の家族のように育って……。

『茉由里、ほら、おいで』

 幼い宏輝さんが私に手を差し伸べる。変声もまだの、優しいソプラノ。伸ばされた手は小さく、細く、けれどしっかりと私の手を繋ぎ微笑む。端正なまなざしは、幼心さえもときめかせた。

 私たちが育った上宮家のお屋敷には広い日本庭園があった。綺麗な錦鯉が泳ぐ石の池、上品に植えられたイロハモミジ、春になれば大輪の花を咲かせるソメイヨシノ。
 私たちは手と手を取り合って庭を駆ける。そんなふうに過ごすのが幸せだった。

『あー、宏輝だけずるい。ほら茉由里、あたしとも遊ぼ』

 美樹さんが私を抱きしめる。健やかな長い手足、色素の薄い髪と目の色、美しい人形のような彼女にお人形のように扱われるのが大好きだった。

『かわいい、茉由里はとってもかわいいわ』
『かわいいのは美樹ちゃんだよ』
『何言ってるの。茉由里ちゃんかわいい上に綺麗なのよ。ほら、髪の色も綺麗な真っ黒。目だって黒い宝石みたい。お肌も雪みたい』

 真っ黒で真っ直ぐな髪も、黒目ばかり強調された大きすぎる瞳も、白すぎる肌も、やかに赤い唇も、自分ではちょっと好きじゃなかった。でも美樹ちゃんは『お人形みたい』とかわいがってくれる。

『ね、宏輝。綺麗だよね、かわいいよね、茉由里』

 そう言われたとき、宏輝さんは決まってそっぽを向いていた。

『照れてるんだあ、宏輝。ほら言ってみなよ、素直にかわいいって。綺麗だって。ほら!』




「綺麗だ」

 夢の中で聞いた美樹さんの声に続いて聞こえたのは、すっかり低くなった「現在」の宏輝さんの声だった。
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