凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
ハッとして目を見張る。
「茉由里?」
私を覗き込んでくる、今のすっかり大人の男性になった宏輝さんの瞳と視線が絡む。端正で精悍な眉目。その瞳の奥にある熱に背中がゾクっとわなないて、同時に自分の状況を思い出す。
私は宏輝さんに押し倒され、ソファで何度も貪られている最中だったのだ。
乱れた服は、裸よりよほど淫ら。
宏輝さんの手が私の汗ばんだ額を撫でる。優しく、慈しむ手つきは昔と変わらない。すっかり大きくなった手のひら、節高い男性らしい指、浮き出た血管の太さは私のものとは全く違う。
「そろそろ素直になってくれないか?」
宏輝さんは私の服をするすると脱がせながら言う。私は顔をそむけ、ぎゅっと目を瞑る。
目を見られれば、全てバレる気がした。
まだ私は彼が好きだと、愛していると、狂おしいほど彼を求めているのだと。
「よく俺のことを好きじゃないなんて言えるよな。俺の子どもまで産んでいるのに」
そう言って彼が私の下腹部をその大きな手のひらで撫でた。やけに官能的な動きに思わず目を見開き、おずおずと彼を見上げる。ふ、と宏輝さんが笑う。微かに動く喉仏がどうしようもないほどに男だった。
幼かった彼と今の彼が二重映しに見える。
大人になった彼は、純粋に私と笑い合っていられる立場じゃない。有能な外科医であり、大病院を時期に継ぐ。
そんな彼から、私は逃げたのだ。
彼のためだった。彼の家族のためだった。そして逃げたあと、お腹に命を授かっていたのだと知った。
月満ちて生まれたかわいい息子を、何がなんでも幸せにしなくてはと、ここまでがむしゃらに頑張ってきたのに……。
ついに見つかってしまった。
「かわいい、茉由里。なあ、愛してる」
そう言って下腹部を触っていた手を私の肌の上、滑らせる。その硬い指先が繊細な陶磁器でも愛でるように私の乳房に触れる。反射的に漏れた甘い吐息を、彼はどう思ったのだろうか。
嬉しげに微笑み、自らのワイシャツもスラックスも脱ぎ捨てて宏輝さんは私をかき抱く。
「愛してる、茉由里。俺には君だけだ──今までも、これからも」
触れ合う素肌が、信じられないほど心地いい。しっとりと濡れているのは、さっきまでの激しい情事の残滓だ。
声を抑えるのに必死で、嵐のようなその行為の記憶はほとんどない。
ただ貪られ、慈しまれ、激しく揺さぶられ、優しくキスされた。
思い出した身体が勝手に反応して熱を持つ。
「……でも」
私は必死で呼吸を整えようと喘ぎながら続ける。
「でも、あなたには婚約者が」
彼女は、旧家の跡取りであり、同時に大病院の御曹司である宏輝さんにふさわしい、美しく才能もある自信に満ちた女性だ。
私なんかより、よほど彼に釣り合う。
けれど宏輝さんはひどく眉を寄せ、吐き捨てるように言った。
「茉由里。いいか、あんな女を愛したことはない」
そうして私の耳をくすぐる。耳殻を舐めたり甘噛みしたり、指先で弄ったりしながら耳元で噛んで含めるように言う。低く甘い、少し掠れた声は脳に直接注がれているようでくらくらする。
「俺が愛しているのは君だけ。永遠に君だけだ」
耳でくちゅり、と音がする。彼の少し分厚い舌が耳孔を舐めている音だ。
「ああ」
走る快楽に思わず声が漏れる。くっ、と愉しげに彼が低く笑う。お腹の奥がぞわぞわして蕩けていく。